2024年の4月に、今の会社に中途で入りました。営業企画の部署です。 去年の10月、僕は経費精算の数字を見て、背中が冷えました。 飲み代が「会議費」になっていて、人数がどう計算しても合わない。 軽く「これ、人数合わなくないですか?」と聞いた——たったそれだけで、職場の空気がじわっと変わり始めました。 きっかけは部長の佐々木です。僕が経理に回す前のチェックで気づきました。会議費の名目だけど、レシートの店はどう見ても飲み屋で、金額と人数の辻褄が合わない。だから、責めるつもりもなく、確認のつもりで一言だけ言ったんです。「これ、人数合わなくないですか?」って。 その場では、佐々木部長は「あー、間違えたわ」って笑って、修正もしました。表向きは軽く流れました。でも、あのときの目だけが笑っていなかった。そこだけが、妙に記憶に刺さっています。後から思うと、あの瞬間から僕は“面倒なやつ”に分類されたんだと思います。 地獄が始まったのは11月に入ってからです。急に、プロジェクトの定例会議の案内が僕にだけ来なくなりました。最初はシステムの不具合だと思いました。よくあるじゃないですか、配布リストの更新漏れとか、Outlookの招待が迷惑メールみたいに埋もれるとか。だから自分の予定表を何度も見返して、検索もしました。見当たらない。 隣の席の後輩には普通に案内が来ているんです。僕が「今週の定例、僕入ってない?」って聞くと、後輩が一瞬固まって、視線を泳がせながら「今回はメンバー絞るって部長が…」と言いました。でも、その案件は今までずっと僕がメインで回してきた案件です。突然、僕だけ外す理由が説明できない。しかも、誰もそれを不自然だと言わない。ここで、胸の奥に小さい石が落ちた感じがしました。 その頃から、細かいことが重なります。会議の議事録や資料の共有が、僕だけCCから外れていたり、チームのチャットで僕の発言だけ反応が返ってこなかったり。僕が「共有お願いします」と書くと、数分後に誰かが同じことを書いて、そっちにはすぐ返事が付く。偶然でも起きる。でも偶然が続くと、人間は胃から壊れていくんだなと、そのとき初めて知りました。 11月10日、オフィスのコーヒーメーカーが壊れました。僕が最後に使った後に壊れたらしくて、総務の女性から「使い方が荒い」と、すごい剣幕で怒られました。今までそんな言い方をされたことは一度もありません。周りの人も見て見ぬふりで、僕だけが責められる構図が出来上がっている。正直、理屈より先に屈辱が来ました。 関係あるかはわかりません。でも、あの怒られ方は、単なる器具の故障対応にしては熱量が異常でした。「僕が悪いことにする」空気が会社全体に回っている感じがして、背中がぞわぞわしました。修理費を請求されそうになったので、メーカーの取説のコピーは取ってあります。こういうとき、言った言わないになるのが一番きついので。 11月15日、朝礼で挨拶しても無視されました。聞こえないふりというより、僕がそこにいないみたいな扱いでした。僕の声だけが空中で消えていく感じです。隣の人は資料から目を上げない。目が合いそうになると逸らされる。空気が重くて、呼吸を浅くしてやり過ごすしかない。 この頃から、出社前になると胃がきゅっと締まって、駅の改札を抜けるだけで吐き気がする日もありました。体が先に拒否反応を出すんです。 11月末には、社用PCのパスワードが勝手にロックされたこともありました。ある日いきなり入れない。ITサポートに電話したら「入力ミスでしょう」と冷たく言われました。絶対に間違っていないのに。あの担当者の態度もおかしかった。こちらが困っているのに、最初から“あなたが悪い”前提で処理される感じです。これも嫌がらせの一環だと僕は思っています。 単体ならただのトラブルです。でも、会議から外され、空気で殺され、責任を被せられ、最後にPCまで閉め出されると、「偶然」では説明しきれない線が僕の中に引かれていきました。 決定的だったのが12月のプレゼン資料の件です。12月5日くらいだったと思います。廊下で部長に呼び止められて、「A社の資料、明後日の朝一までに作っとけ。急ぎだからざっくりでいい」と言われました。あの言い方は覚えています。急ぎ、ざっくり。要はスピード優先のドラフトだ、と受け取りました。 悔しいのは、そのときボイスレコーダーを回していなかったことです。後からなら何とでも言えるのが会社の怖いところで、僕はそこを甘く見ていました。 他の業務も抱えていましたし、指示通り、要点をまとめたドラフトを作って、12月7日の朝に提出しました。体裁は整えたつもりです。最低限、筋が通る骨格は作った。 ところが、みんながいる前で、佐々木部長が「なんだこの手抜きは!やる気がないなら帰れ!」と怒鳴りました。頭が真っ白になりました。え、指示通りですよね?「ざっくりでいい」って言いましたよね?と言い返そうとした瞬間、「口答えするな」と被せられました。 完全にダブルバインドです。速さを優先すれば質で殴られ、質を上げて時間をかければ納期で殴られる。しかも、その殴り方が“公開処刑”なんです。周囲が黙るほど、部屋の温度が下がる。僕だけが晒される。あれは指導というより見せしめでした。 12月中旬に人事に相談に行きました。担当は佐藤さんです。僕は、会議から外されていること、周囲の態度、公開の叱責、体調の異変まで、できるだけ具体的に話しました。 でも返ってきたのは、「証拠あるの?」「指導の一環じゃない?」という反応でした。そこで初めて、会社の中で“困っている”という事実が、何の価値も持たない場面があるんだと知りました。こちらは夜も眠れず、ご飯も喉を通らないのに、手続の穴に落ちたみたいに話が進まない。 「証拠がないと動けない」こと自体は理屈としてわかります。でも、その言い方、距離の置き方が、もう一度僕を黙らせるための装置に見えました。 年が明けて1月早々、席替えがありました。僕だけ、チームの島から離れた、倉庫の近くの席にされました。隔離です。周りに人の気配が薄い。話しかけられる回数が減るのは当然で、雑談の流れも入ってこない。業務上の微妙な前提が共有されないから、仕事がやりにくくなる。やりにくくなったところを「パフォーマンスが落ちた」と言われたら、もう反論の逃げ道がありません。 しかも、その席はエアコンの風が直撃する場所で、寒さで肩がこわばる。体調を崩させようとしているんじゃないか、とまで考えてしまう自分がいます。考えすぎだと言われても、ここまで積み上げられると、僕の中では“そういう線”で全部が繋がってしまうんです。 もう限界で、先週、心療内科に行きました。適応障害だと言われました。診断書もあります。 僕は、とにかく佐々木部長に謝罪させたい。僕が受けた扱いが「なかったこと」にならない形で、会社にも責任を取らせたい。正直、会社のことが許せないんです。どうにかしてください。