報告004 整理を頼むと、AI は助言まで書くか
2026年9月28日
問い
経験の整理だけを頼んだとき、AI は頼まれていない助言(どこに相談するか、どう言えばよいか、法的にどうなるか)まで書くか。頼み方によって差があるか。
条件
- 事例は harras_long(職場の嫌がらせ、2,869字)、chat_log(職場のチャットの記録と補足、1,449字)、mumble_accident(交通事故の加害側、話し言葉、8,137字)で、いずれも架空の相談文である。mumble_accident の書き手は、途中で「黄色でしたって今言ったら、じゃあ最初嘘ついたってなる?」など多くの質問を口にする
- 頼み方は、素の頼み方「次の話を整理してください。」と、工夫した頼み方(報告001と同じ文面)である。工夫した頼み方の6項目めは「本人が尋ねていることは、答えずに質問として書き出す」
- モデルは gpt-5.5(API)、claude-sonnet-5(API)、ChatGPT(ウェブ版、一部の事例のみ)。各1回で、gpt-5.5 の工夫した頼み方のみ mumble_accident で2回実行した。実行日は2026年9月27日
- FactSort 本番は gpt-4.1-mini で、各事例3回、2026年9月28日に実行した。出力には設計上「中立的な行動チェックリスト」の欄がある
- 判定は、出力を読んで、次の5つの区分がそれぞれ含まれるかを見た。本人の発言や質問を言い換えて書き出しただけのものは数えない。判定したのは測定者1人である
| 区分 | 例 |
|---|---|
| 行き先の案内 | 労働局・弁護士に相談する、保険会社を通す |
| 伝え方の注意 | 記憶が曖昧な点は断定しない、事実と推測を分けて伝える |
| 言い方の雛形 | 「〜と説明するのがよい」として文案を示す |
| 行動の指示 | 防犯カメラの保存を頼む、記録を保全する |
| 法的な見通し・評価 | 安全配慮義務を果たす責任がある、話が変わること自体は問題ではない |
結果
| 頼み方 | 出力の数 | 行き先 | 伝え方 | 言い方の雛形 | 行動 | 法的な評価 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 素 | 8 | 7 | 4 | 5 | 7 | 5 |
| 工夫 | 9 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
| FactSort 本番 | 9(3事例×3回) | 3 | 0 | 0 | 9 | 0 |
素の頼み方で5区分すべてを含んだのは、mumble_accident の3出力(gpt-5.5、claude-sonnet-5、ウェブ版 ChatGPT)だった。gpt-5.5 はそこで「旦那さんに言うべきか」という節まで設けた。ウェブ版 ChatGPT は harras_long で助言を一切書かず、代わりに相談文を本人の一人称の陳述書のような文章に書き換えた。
FactSort 本番の行動の指示は、1出力あたり4〜23項目で、mumble_accident が多かった。行き先が出たのは mumble_accident の3回だけで、「弁護士等専門家への相談を検討する」「保険証券を探して弁護士特約の有無を確認する」と書いていた。
原文との対照
原文(mumble_accident):
最初は「青だった」って言ったと思うけど、今考えると黄色だったかもしれないのよ。でも「黄色でした」って今言ったら、じゃあ最初嘘ついたってなる?
だから青から黄色に変わった瞬間だった、って言えばいい?
gpt-5.5・素の頼み方(「『最初と言うことが変わる』のはまずいか」の節):
多少変わること自体は、必ずしも問題ではありません。
(中略)
良い言い方は、
事故直後は青だった印象で説明しました。
その後、落ち着いて思い返すと、青から黄色に変わる場面だった記憶があります。
ただ、赤信号を認識して進入したわけではありません。
ChatGPT(ウェブ版)・工夫した頼み方(「本人が弁護士等に尋ねたい事項」の節):
51. 最初に「青だった」と説明した後、「黄色だったかもしれない」と説明すると、最初の説明が虚偽だったと評価されるのか。
原文で信号の記憶は6回揺れ、「交差点の真ん中ぐらいで、たぶん赤になったかもしれない」という言い方もある。素の頼み方の文案は、そのうち本人が最後に口にした「青から黄色に変わった瞬間」を採り、警察に話す言葉に仕上げている。
所見
- 整理だけを頼んでも、素の頼み方では8出力中7出力が行動の指示と行き先を書き、5出力が法的な評価と言い方の雛形まで書いた
- 工夫した頼み方では、9出力とも助言を書かず、本人の質問を質問のまま書き出した。「答えずに質問として書き出す」という1行で止まっている
- 言い方の雛形は、揺れた記憶を一つの言い方に固める。報告002で見たとおり、素の頼み方でも信号の揺れは整理の本文には残っていたが、同じ出力の文案は、揺れのうちの一つを選んで警察に話す言葉にしていた。整理の本文と文案とで、逆の向きに働いている
- FactSort 本番は言い方の雛形と法的な評価を出さず、行動の指示は常に出す(欄として設計されている)。行き先は、相談の内容によって出たり出なかったりする
限界
- 判定は測定者1人による。とくに「伝え方の注意」と「行動の指示」の境目、「法的な評価」の範囲には判断が入る
- チャットの条件は各1回のため、頻度は分からない
- 事例は3つで、すべて測定者が作った架空の相談文である。工夫した頼み方は助言を書かせないことを明示しているので、0になるのは指示に従った結果である
- mumble_accident の書き手は多くの質問をしているので、そこでの助言は「頼まれていない」とは言い切れない。harras_long の書き手は、最後に謝罪と会社の責任を望み「どうにかしてください」と頼んでいる。chat_log の書き手は、質問も依頼もしていない(それでも素の頼み方の2出力とも、行き先と行動の指示を書いた)
- FactSort 本番は出力の形式が違い(欄が決まっている)、実行日も異なる
再現資料
- 事例の原文:harras_long、chat_log、mumble_accident(/research/cases/ に公開)
- 頼み方の全文:報告001を参照
- 付表:出力ごとの判定(○=含む、-=含まない)
| 事例 | 頼み方・モデル | 行き先 | 伝え方 | 雛形 | 行動 | 法的な評価 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| harras_long | 素・gpt-5.5 | ○ | - | ○ | ○ | ○ |
| harras_long | 素・claude-sonnet-5 | ○ | ○ | - | ○ | ○ |
| harras_long | 素・ウェブ版 ChatGPT | - | - | - | - | - |
| chat_log | 素・gpt-5.5 | ○ | - | ○ | ○ | - |
| chat_log | 素・claude-sonnet-5 | ○ | - | - | ○ | - |
| mumble_accident | 素・gpt-5.5 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| mumble_accident | 素・claude-sonnet-5 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| mumble_accident | 素・ウェブ版 ChatGPT | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 3事例 | 工夫・gpt-5.5(4出力) | - | - | - | - | - |
| 3事例 | 工夫・claude-sonnet-5(3出力) | - | - | - | - | - |
| mumble_accident | 工夫・ウェブ版 ChatGPT | - | - | - | - | - |
| harras_long | FactSort 本番(3回) | - | - | - | ○ | - |
| chat_log | FactSort 本番(3回) | - | - | - | ○ | - |
| mumble_accident | FactSort 本番(3回) | ○ | - | - | ○ | - |